村岡 洋文

所長・教授  むらおか ひろふみ

図1 2010年4月25日インドネシアバリ島の世界地熱会議レセプションにて

メッセージ
2009年、弘前大学は青森市に、北日本新エネルギー研究センターを設立し、同年11月にはその一環として3名の教授の公募を開始した。我が国の大学が新エネルギーに特化した研究センターを設立したのは初めてのことであり、同センターはいずれ、弘前大学のユニークな拠点のみならず、我が国のユニークな拠点になるものと期待される。その設立に尽力された関係者の先見の明には大いに敬意を表したい。私は(図1)、若き日に八甲田山等(図2)、青森の地熱地域を約20年間調査して来た。しかし、青森県下には、未だに一つの地熱発電所の建設さえ実現しておらず、このことを永らく不本意に思って来た。私は最近では、全国の地熱資源量評価の研究や温泉発電ビジネスモデルの研究を通じて、地熱による地方産業の創出を模索している。しかし、これとても、具体的なフィールドでの実践は今後の課題である。このことから、私は青森県下に地熱発電所を誘致する好機であるとともに、若き日のフィールドに回帰する好機である、この公募に飛びついた次第である。そして、縁あって、2010年4月からこのセンターに奉職することとなった。図3は2010年6月2日に試作した、私の同センターへの想い入れを示す初代ロゴマーク案である。

図2 2010年4月9日朝、松園橋から見た八甲田山 (青森市から見ると、八甲田山は名のイメージ通り)

図3 北日本新エネルギー研究センターの初代ロゴマーク案 (ただし、著作権はセンターに移譲する)

新エネルギーによる低炭素化社会は、何も北日本のみが必要としている訳ではない。全世界が必要としている。大都市がエネルギーを大量に消費していることから言えば、大都市も大いに変革されなければならない。ただ、北日本新エネルギー研究センターが青森市に設立されたことには一つの象徴的な意味があるように思われる。それは青森市が我が国で最も厳しい豪雪都市であるという点である。図4をみていただきたい。我が国で最も積雪が多いのは北海道であると思われがちである。しかし、いま十数万人以上の人口をもつ都市に注目した場合、青森市の平均的な年間累積降雪量は我が国最大級であり、実際には北海道の都市よりも大きいのである(図4)。その結果、灯油の世帯当たりの年間消費量についても、図4のように青森市が全国で群を抜いている。つまり、青森市民は我が国最大級の豪雪に苦しめられ、枯渇や価格高騰のリスクをもつ灯油に依存せざるを得ず、かつ、多量の二酸化炭素を排出せざるを得ない状況にあるのである。同様のことは弘前市についても言える。統計によれば、青森県の平均年収は全国の都道府県中ワースト2位である。その背景には、年間約9万円もの灯油代に加えて(図4)、ガス代・電気代など、高額のエネルギー負担に1つの原因があるように思われる。したがって、もし、青森県にクリーンで再生可能な新エネルギーのインフラ構造を構築することが出来れば、経済、環境、エネルギー安全保障といった三重の利益がもたらされることになるのである。これが『北日本新エネルギー研究センター』が敢えて『北日本』の名を冠し、青森市に設立された潜在的意義であるように思われる。もちろん、同センターが大学本部のある弘前市ではなく、青森市に進出した理由については2010年12月4日に開通予定の青森新幹線にも関係している(図5)。

図4 主要都市の平年積雪量と世帯年間灯油代の関係 (前者は気象庁、後者は「となりの芝生」による)

図5 2010年5月20日仙台駅に停車中の東京―青森間を3時間20分で結ぶ E5系「はやぶさ」

さて、様々な新エネルギーがあるが、私は地熱エネルギーを専門とするため、先ずは地熱で夢を描いてみたい。図6のように、地球の中心温度は6000℃と推定されている。そして、地下温度が1000℃に達する深さは深度70~250㎞付近の(地震波が遅くなる)低速度層と呼ばれる付近である。つまり、地球内部はごく表層のみが温度1000℃以下であって、その容積の約93%は1000℃を超える巨大な熱機関である。この地球内部の熱は、マントル対流やプレートテクトニクスや地震活動や火山活動や地熱活動など、地球内部の変動の原因になっており、絶えず地球内部から表層に向かって放出されている。したがって、このエネルギーを有効利用することはほとんど地球内部の動的平衡を乱さない。と言うよりも、現在、地熱に利用されている坑井の深度は深くとも5㎞程度に過ぎず、ごく表層の地熱エネルギーしか利用できていないのが現状である。最も典型的な地熱利用は蒸気フラッシュ発電と呼ばれる地熱発電であり、地下水が火山帯のマグマの熱で暖められて生成される高温熱水対流系に坑井を掘削し、地下から噴出する蒸気でタービンを回転し、発電する。そのため、これまでの地熱発電所はほとんど火山帯に限定されていた。ところが近年では、より低温の(100℃代や100℃未満の)熱水を汲み上げ、この熱を低沸点媒体に伝え、低沸点媒体の蒸気でタービンを回転させるバイナリーサイクル発電が普及してきた。そのため、地熱発電はやや深く掘削する必要があるものの、火山帯に限らず、ほとんどの陸域で可能になって来た。これは図6から容易に想像されることであろう。たとえば、ドイツで稼働している3つの地熱発電所は、このような非火山帯の地熱発電所である。

図6 地球内部の温度構造概念図 (地表描画にはWessel and Smith, 1998のGMTを使用)

青森県や青森市の地熱利用の将来を考える場合、格好の先進的モデルが実在する。それは同じように寒冷地であり、暖房が生命線のアイスランドである。アイスランドの人口はわずか31万人であり、ちょうど、青森市と同規模である。人口の6割以上が首都のレイキャビクに住んでいる。しかし、この小さな国は驚異の地熱利用国である。2009年現在、1次エネルギーの66%を地熱エネルギーで、19%を水力エネルギーで賄っている。つまり、85%を再生可能エネルギーで賄っている。ほとんどエネルギー独立国なのである。極めつけは、全家庭の90%が地熱によって暖房されていることであろう。地熱発電設備容量は2008年に58万kWに達し、すでに54万kWの日本を追い抜いている。地熱発電量には余裕があるため、これを有効利用して、アルミの精錬などが行われている。このような先進的事例からみても、その気になりさえすれば、青森市の1次エネルギーの50%程度を地熱エネルギーで賄うといった目標は十分に現実性があるのである。加えて、我が国の場合には、温泉バイナリー発電という、未利用温泉熱エネルギーを利用した小型発電市場を広範に開拓できる可能性がある。是非とも、豪雪都市における高度な地熱利用を実現したいものである。アイスランドの先進的事例からも明らかなように、新エネルギーや再生可能エネルギーの開発はグローバルな意義をもつ公共事業であり、世界の仲間たちと英知を分け合い、協力し合って推進して行くことが不可欠であるように思われる(図7)。北日本新エネルギー研究センターの活動を充実させて行くのはまさにこれからであり、皆様の絶大なるご支援をお願いする次第である。

図7 2010年4月23日インドネシアバリ島にて撮影した IEA地熱実施協定の強力な仲間たち

 


    • 連絡先: Mail:hiro@hirosaki-u.ac.jp Tel:017-762-7294
    • 専 門: 院生時代:変成岩岩石学 奉職後:地質リモートセンシング、地熱地質学、火山地質学、構造地質学
    • 研究紹介: 変成岩研究、地質リモートセンシング、カルデラ研究、深部地熱資源調査、インドネシア地熱研究協力、地熱探査技術、地熱資源量評価、地熱データベース、温泉発電ビジネスモデル研究
    • 略 歴: 【学歴】 1970年 3月 山口県立宇部高等学校卒業 1975年 3月 山口大学文理学部理学科(地質学鉱物科学専攻)卒業 1977年 3月 広島大学大学院理学研究科博士課程前期(地質学鉱物学専攻)修了 1978年 3月 広島大学大学院理学研究科博士課程後期(地質学鉱物学専攻)中途退学 1989年 2月 理学博士(広島大学)【職歴】 1978年 4月 工業技術院地質調査所(企画室)採用 1978年 6月 同所地殻熱部地殻熱探査課に配置換 1983年11月 新エネルギー総合開発機構地熱調査部地熱調査第二課(主任)出向 1985年 4月 地調査所地殻熱部地殻熱探査課復帰 1985年 4月 同所地殻熱部地殻熱探査課主任研究官昇任 1989年 9月 ニュージーランドオークランド大学地質学教室に博士後研究員として出張 1991年 3月 同所地殻熱部地殻熱探査課主任研究官復帰 1993年 7月 新エネルギー・産業技術総合開発機構地熱調査部地熱調査第二課(課長)出向 1985年 9月 地質調査所地殻熱部地殻熱資源課(課長)復帰 2001年 4月 独法化により(独)産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門アジア地熱研究グループ長 2003年 4月 同所同部門アジア地熱研究グループ解消に伴い,同部門付き主任研究員 2003年10月 同所同部門地熱資源研究グループ長 2010年 4月 国立大学法人弘前大学北日本新エネルギー研究センター教授 2010年10月 国立大学法人弘前大学北日本新エネルギー研究所教授【その他】 現在、IEA地熱実施協定日本代表、IPCC再生可能エネルギー特別報告書地熱章リード執筆者、日本地熱学会評議員、京都大学都市社会工学非常勤講師、産総研地圏資源環境研究部門客員研究員。 【所属学会】 日本地熱学会、国際地熱連合、日本地質学会、日本火山学会、東京地学協会、米国地球物理学連合
  • 著作・論文・特許等: 【主な著書(共著)】 - 湯原浩三監修・村岡洋文ほか90名共著(1982)レーダー映像法.182-197. 「地熱開発総合ハンドブック」,フジテクノシステム,1109p. - 村岡洋文ほか33名共著(1982)「新エネルギー技術用語集-地熱編-」.日本産業技術振興協会,107p. - 村岡洋文・高倉伸一(1983)「10万分の1八甲田地熱地域地質図説明書」.特殊地質図(21-4),地質調査所,27p. - 村岡洋文ほか20名共著(1988)理科年表読本「宇宙からみた地球」.丸善㈱,159p. - 村岡洋文ほか48名共著(1989)「用語辞典」.資源探査のためのリモートセンシング実用シリーズ別冊,資源観測解析センター,185p. - 村岡洋文・長谷紘和(1990)「黒石地域の地質」.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所,124p. - 村岡洋文・高田 亮・森下祐一・玉生志郎・栗田 敬・編集(1994)「浅部マグマ溜りとその周辺現象の地球科学」.地質学論集,第43号,日本地質学会,177p. - 村岡洋文ほか11名共著(1995)「資源リモートセンシング概論」.資源探査のためのリモートセンシング実用シリーズ①,資源観測解析センター,223p. - 宝田晋治・村岡洋文(2004)「八甲田山地域の地質」.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),産総研地質調査総合センター,86p. - 村岡洋文ほか29名共著(2004)「エネルギー便覧・資源編」.コロナ社,324p. - 村岡洋文ほか40名共著(2005)「地球をのぞくファイバースコープ-陸上掘削サイエンス・プラン-」.日本地球掘削科学コンソーシアム,101p. - 村岡洋文ほか18名共著(2007)「メコンと黄河-研究者の熱い思い-」.学報社,268p. - 村岡洋文・阪口圭一・玉生志郎・佐々木宗建・茂野 博・水垣桂子(2007)「日本の熱水系アトラス」.産総研地質調査総合センター,110p. - 村岡洋文ほか33名共著(2009)3.1世界の地熱資源.61-69.「地熱発電」,(社)火力原子力発電技術協会,145p. 【主な原著論文】 (2010年分のみ) - Muraoka, H., Gunnlaugsson, E., Song, Y., Lund, J., Bromley, C. and Rybach, L. (2010) Host rock controls to thermal water chemistry induced from the global comparison. Current Applied Physics, 10, S102-S107, doi: 10.1016/j.cap.2009.11.012. - 村岡洋文・大里和己(2010)温泉発電.地熱発電と温泉との共生を検討する委員会編「地熱発電と温泉利用との共生を目指して」,日本地熱学会,26-33. - Muraoka, H., Takahashi, M., Sundhoro, H., Dwipa, S., Soeda, Y., Momita, M. and Shimada, K. (2010) Geothermal systems constrained by the Sumatran fault and its pull-apart basins in Sumatra, western Indonesia. Proceedings of World Geothermal Congress 2010 (CD-ROM), Bali, Indonesia, 9p. - Muraoka, H., Gunnlaugsson, E., Song, Y., Lund, J., Bromley, C. and Rybach, L. (2010) International database of hydrothermal chemistry: a case of Task-A of Annex VIII of IEA-GIA. Proceedings of World Geothermal Congress 2010 (CD-ROM), Bali, Indonesia, 6p. - Bromley, C., Mongillo, M., Hiriart, G., Goldstein, B., Bertani, R., Huenges, E., Ragnarsson, A., Tester, J., Muraoka, H. and Zui, V. (2010) Contribution of geothermal energy to climate change mitigation: the IPCC Renewable Energy Report. Proceedings of World Geothermal Congress 2010 (CD-ROM), Bali, Indonesia, 5p. - Song, Y., Gunnlaugsson, E., Muraoka, H., Bromley, C., Rybach, L. and Lund, J. (2010) Barrier and opportunity identification in geothermal direct use: a Task of collaborative research under IEA-GIA. Proceedings of World Geothermal Congress 2010 (CD-ROM), Bali, Indonesia, 5p. - Yasukawa, K., Noda, T., Muraoka, H., Adachi, M., Matsunaga, I. and Ehara, S. (2010) Long-term prospects of geothermal energy uses and their environmental effects in Japan. Proceedings of World Geothermal Congress 2010 (CD-ROM), Bali, Indonesia, 4p.【最近の講演】 (2010年分のみ) - 村岡洋文(2010)地熱探査分野におけるリモートセンシングのレヴュー.「環境共生地熱開発のための計測・探査技術に関する調査研究」第2回調査委員会,東京,2010年1月22日. - 村岡洋文(2010)産業構造転換期の中での地熱エネルギーによる東北地方活性化案.東北経済産業局主催『東北地域における地熱・地中熱活用セミナー』,仙台,2010年3月19日. - 村岡洋文(2010)地熱発電の現状と展望.第212回エネルギー問題研究会,エネルギー総合推進委員会,東京,2010年3月23日. - 村岡洋文(2010)青森・弘前大学発地熱再生計画.新エネルギープロジェクト企画検討委員会第8回月例会,国立大学法人弘前大学北日本新エネルギー研究センター,2010年4月15日. - Muraoka, H. (2010) Task A Resource Characteristics Update. Annex VIII (Direct Use of Geothermal Energy) Meeting of the Geothermal Implementing Agreement, IEA, Bali, Indonesia, April 21, 2010. - Muraoka, H. and Takaki, A. (2010) Japan Country Update. The 23th Executive Committee Meeting of the Geothermal Implementing Agreement, IEA, Bali, Indonesia, April 23, 2010.

最終更新:2010/08/03

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